永井 豪(ながい ごう)
漫画家。1945年(昭和20年)生まれ。石川県輪島市出身。石ノ森章太郎のアシスタントを経て1967年デビュー。『ハレンチ学園』や『キューティーハニー』、『デビルマン』など、少年マンガの世界に性やバイオレンスの表現を取り入れて、後続の作家に多大な影響を与える。また、テレビアニメの原作者としても先駆的存在で、『マジンガーZ』では、後に続く「スーパーロボット」の礎を築いた。


ロボットのデザイン

永井 僕は、子供の頃──紙はやらなかったんですが──色粘土を組み合わせてロボット作って遊んでたんですよ。小学校高学年だったんで、卒業したら続けることはなかったんですけど。弟の方が影響されて、ずーっと粘土のロボット軍団をつくっていました。で、できたロボットを並べて、どれが一番強いかってやってたんですね。カミロボみたいに、ここまでちゃんとプロレスさせるところまではやりませんでしたけど。戦わせたらフニャっとなって色が混ざっちゃいますから、結局は置いとくだけでしたけどね(笑)。立たせるのが難しかったですね〜。何十体って作ってました。僕も安居さんと似たような種類の人間って事でしょうか……(笑)。

安居 (笑)早速ですが、先生のロボットの「デザイン」について、お話をお聞きしたいのですが。

永井 はい。僕の世代は、『鉄腕アトム』と『鉄人28号』で育ちましたからね。当時『少年』っていう雑誌に連載されていて人気だったので。鉄人のキャラもそうですけど、アトムの敵キャラがね、ユニークなものがたくさん出てきますし──例えば、「プルートゥ」みたいなのがね。だから、ロボットのデザインっていうのは、当時からとても興味がありました。

安居 先生のロボットデザインって、色使いが独特ですよね。デザインも、子供の時に見て潜在的なところに残るデザインというか、いい意味で違和感があって、そこがスゴく好きなんですけど。自分もデザインしてる中で、いろいろ考えながらやってるんですけど、あらためて先生の色使い、模様ってスゴいなと思うんですね。

永井 敵キャラは随分作りましたね。『マジンガーZ』の時は毎週やらなきゃいけなかったので……色まではやらなかったですけどね。あとはアニメーターに渡してましたから。これは、もうあちこちで話してますけど、クルマの渋滞をみてマジンガーZを思いついたんですね。背中からカタパルトを出して、それをオートバイで駆け上って操縦席に入るってアイデアを考えついて、それでクルマみたいに運転すればいいと思ったんですけど。当時のスポンサーサイドの意向で、オートバイがダメって言われて、「ホバーパイルダー」っていう、ホバークラフトをアレンジした操縦席を作ったんですけど、頭に乗せてからどうも不安定だなって思ったりして……。「これは敵の攻撃を横から受けたらまずいな」って事で、城壁をつけようって事にしたんです。要するに「マジンガーZ」の頭部側面のあれって、城壁なんですよね。正面は見えやすいから戦いやすいと思いますけど、横からは弱いですからね。


ロボット×プロレス

永井
 ロボットシリーズも、『マジンガーZ』からはじまって、『グレードマジンガー』『グレンダイザー』とやって、『ゲッターロボ』『鋼鉄ジーグ』までやってひと区切りしたんですけど、だんだん「ロボットプロレスアニメじゃないか」って声が周りから聞こえ始めてね。「だったら、思いっきりロボットプロレスやろう!」と思って、『アイアンマッスル』を『少年マガジン』でやって。テレビでもやろうとしたんですけど、丁度『プラレス三四郎』って番組があって、それと重なっちゃうってことで……。結局、オモチャと直結してるって理由で向こうが選ばれちゃったんですけどね。『アイアンマッスル』はそれでやめちゃったんですけど、あれがテレビアニメ化になってれば、正当ロボットプロレスアニメってジャンルは、残ったんじゃないかって思うんですが……。

安居 『プロレスの星 アステカイザー』とか──『獣神ライガー』はまたちょっと違いますけど、いずれにしても「ロボット×プロレス」というのは、先生の中でコンセプトとしてあったんですか?

永井 ガンダム以降ね、ロボットがどんどん「兵器」になっていって、戦車とか戦闘機と扱いが変わらなくなっていくんですね。そういうのもありだとは思うんですけど、ちょっと哀しいかなっていう……。もっと操縦者が「肉弾戦」で戦うのが欲しいな、と思ってたんです。そうはいっても『マジンガーZ』の中には、かなりの兵器を積み込んでますから、あんまり強くは言えないんですけどね(笑)。ただ、僕は銃までは持たそうとは思わなかったんですけど、ガンダムで銃を持つようになって。遠くから撃ち合うんだったら、別にロボットじゃなくてもいいんじゃないかなっていう想いはありますね。今じゃ銃持つのが当たり前になっちゃいましたから……。ロボットって、少年の頃の早く大人になりたいていう願望が投影されていると思うんですよね。早く成長したい、大人より強くなりたいっていう気持ちは、子供だったら必ず持ってますからね。その象徴としてロボット、っていう風に考えてます……。それがただの兵器になっちゃうのは、ちょっと哀しいかなって思いますよね。

安居 ロボットっていうのは、メカニックというより、筋骨隆々であるとか、そういう事の象徴という?

永井 「こういう力を持ちたい!」っていう気持ちの象徴としてのロボットであって欲しいと。

安居 ロボットデザインで、表面的なカラーリングとかを決められる際っていうのは、例えるなら格闘家が装飾を施すような感じなんでしょうか?

永井 「マジンガーZ」は、西洋の鎧のイメージが入っているんですけどね。肉弾戦とはいってもロボットは身体が硬いから、やっぱり鎧かな、って。じゃあ、乗る人も「兜甲児」にしよう、とかね。周りにもね、弓とか剣とか関連の言葉でネーミングしたりしてね。

安居 マンガの中で、群衆でわっと出て来たりしたときに端っこにいるヤツが、奇抜でかっこ良かったりして、カラーリングというよりもカタチでやっぱりいろいろ工夫されてるのかなって思うんですけど……。

永井 敵キャラの場合は、特にもう、ヒト型じゃなくてもいいのかなって思う部分もあって、なるべく人間から外れた格好で作ってみよう、とか思ってましたね。主人公キャラは、やっぱり見る人が思い入れを持てるように、人間型がいいと思ってましたから。まあ、あまりやりすぎないように、ですけど。『ゲッターロボ』の時にデザインに窮してね、当時は、同時にマジンガーもやってましたから、何を描いてもどうしてもマジンガーっぽくなっちゃって。なんかいい方法ないかなって思ってたら、(アシスタントの)石川賢くんがあの亀の甲羅みたいな顔を作ってくれて「それは面白いから、それでいこうよ」っていうことで、ゲッターロボのあの亀の甲羅みたいな顔ができたわけなんですけどね。

安居 ちなみに、合体っていうアイデアは?

永井 あれは僕がやったというよりも、あの粘土細工で遊んでた弟が──今ではダイナミックプロの社長をやってるんですけど──当時プロデュースをしてまして、『マジンガーZ』の時は「いくらオモチャを作っても、敵キャラは売れない」ってクライアントからいわれたので、「じゃあ、味方をたくさん作りましょう!主役を3体作りますよ!」っていってきちゃってね、こっちは「えー!」ていう感じだったんですけど、3体が合体するというとんでもない事になったんですよ(笑)。無理矢理合体させるもんだから、カタチがどうしてもつじつま合わないわけなんですけど、「いいよ、これで」なんつってね(笑)。石川くんは真面目だから、「どーしてもこのカタチとこのカタチが合わない」とか言ってたんですけどね(笑)。「いいんだよ!」って言ってね(笑)。


肉弾戦こそ、男のロマン?

安居 先ほどからお話にも出ていますが、先生はプロレスもかなりお好きですよね?

永井 ええ、好きですよ。漫画家になってから、かなり見るようになりましたね。猪木の新日本プロレスの立ち上げから、たくさん見ましたね。

安居 やはり、そういうプロレスでの肉弾戦と、ロボットの闘いとは、重なって見えるわけですか?

永井 そうですね。自然とプロレス技は、頭の中で身に付いてというか、そういう感じはしますね。マスクマンでは、ミルマスカラスが好きでね、随分観に行きましたよ(笑)。田園コロシアムとか、野外まで観に行きましたから。

安居 今も、総合格闘技とかは、ご覧になるんですか?

永井 ええ、観ますね。前ほど会場までは行かなくなりましたけど、テレビではよく。

安居 やはり、プロレスとは別モノとして?

永井 そうですね。でも基本は一緒かなと。プロレスは、相手の選手も一緒に受けてあげないといけないという愉しみがあるんですけど(笑)。 イメージ的にはね、プロレスの投げられる選手も協力して投げられるっていう、あーいう美しさが欲しいですよね。でも、人間の場合は、そうやって投げられる選手の協力がないと出来ないんだけれども、「ロボットなら根こそぎ持って行けるような力があるから、それはできるだろう」みたいなところもありますよね。どんな技だって可能かな、っていう。

安居 ロボットも総合格闘技的に戦って行く中で、力が強いってことで、結果的にそれがエンターテイメントになる、みたいな?

永井 う〜ん……プロレスの技って、相撲の技より豊富じゃないですか。柔道の技よりさらに豊富とかね。実戦にないようなめちゃくちゃなあり得ない技も作れるし。そういう華麗な技がね、空中殺法とかね。プロレスの技も見て行くと、だんだん増えて行って、「これはもう、究極の技だろう」と思ったら、みんなやりだして、さらに上をいく技が生まれる、どんどん増えて行きますから。そーいうのが面白かったですね。相手の選手に怪我をさせてしまうってことで、禁じ手になった技もありますしね。藤波がニューヨークのMSGで初めて披露した技を見た時には、ほんとに驚いた。

安居 ドラゴンスープレックス、ですね。

永井 「これは危ないし、よけようがない……ひどいなぁ」って。藤波が修行から返って来てドラゴン藤波ってリングネームで戦った試合で、やったんですよね。どうもその技は、カールゴッチに教えてもらったらしいんですけど。そーいう新しい技、スープレックスもビル・ロビンソンのをみて、随分驚いたんですけど。

安居 実は、そういう要素は、カミロボにも随分入っていまして……。

永井 あー、是非みたいですね。
(用意してきたカミロボDVDダイジェスト版をしばし観る)

永井 スゴいですねッ! 素晴らしいです!

安居 紙で作ってあるんで、ボロボロになってきて、仕方なくコイツ(ブルーキラー)は、セミリタイヤして居酒屋をやってる、という設定になっていたりしまして……。

永井 面白いねえ。これは面白い。団体の攻防もね。よくここまでやったな、って思いますね。

安居 カミロボは、ロボットから始まってるんですが、時間が経つに従って、どんどん人格みたいなものを持つようになっているんですけど、先生も以前インタビューで、「ロボットに心がある」みたいなお話をされていると思うんですが、やはり単なる機械じゃないと?

永井 そうですね。逆に人間もロボットと変わらないんじゃないか、とある意味思ってまして……。魂が入って肉体を動かしている、そうしてはじめて人間なんじゃないかと。たまたま器として、こういう身体をもらったから、漫画家やろうとかね(笑)。あと20cm身長が高かったら、レスラーやりたかったな、とかね(笑)。

安居 ほんとですか!?

永井 そうですよ。でも、やっぱり無理だな俺は、って。マジンガーでも頭に操縦席があるというのは、魂が入るっていう、そういう意味合いもあるんです。ハートに入ってもよかったんですけど、やっぱり頭の方がいいかなって。頭に入るって決まった時から、全体のサイズはこのくらいになる、う〜ん、デカいな、なんて思ったりしてね(笑)

安居 巨大ロボも、そこからなんですね?

永井 そうですね。ここまでデカくしなくてもいいかな、って思ってましたけど。頭に操縦席を入れるとなると、しょうがないか、と。

安居 今後も、やはり先生にとってのロボットって肉弾戦、なんでしょうか?

永井 兵器のロボットはたくさんやられてますし、そろそろ戻って行って欲しいな、と。現実にアメリカなんかも兵器ロボットを研究してたりしていて、もはや現実になり始めているでしょ。そうすると夢がなくなっちゃうな、と。「男のロマン」として、ロボットは肉弾戦で戦うのがいいのかな、と。

安居 男のロマン、ですね!


(対談実施日 2007年12月19日)